多文化共生社会に向けての提言
当研究会のメンバー3人(小職、川邊及び小杉当会両運営委員)は、以前からの然るべきルートにより、平成16年10月1日に現内閣府「規制改革・民間開放推進会議(以下、会議)」内の『国際経済連携WG会議』に民間参考人として招致され、現業実務専門家としての立場から現在の「入管行政」の概要を説明する機会に恵まれました。
その後、当「会議」推進室からの要請により、小職が内閣府の上記WG専門委員として任命を受け、活動しております。
今後、当「会議」として内閣総理大臣への各種「答申案」作成・提出を行うにあたり、その事前作業となる関係行政各省との「ヒアリング」に向けて当「会議」委員の共通の認識による「素案」を作成する必要がありました。
以下の『提言』は、その「素案」作りのための「理論的リポート」として、小職の責任で、他府県の多くの同業者各位からの諸意見を集約したものに一定の「方向性」を付与してとりまとめたものであります。
平成16年11月8日
国際業務研究会
代表 榎本行雄
『多文化共生社会に向けての提言』
1.「総 論」
わが国政府は、平成15年12月22日の「総合規制改革会議」にて「規制改革の推進に関する第3次答申」により、わが国のあらゆる分野での「規制改革(緩和)推進計画」を策定し、行政の各分野において数多くの「規制改革」提言を実施してきましたが、その後、依然多くの本格的な取り組みを必要とする諸課題がまだ多く存在しております。
そこでわが国の「国益」に沿って、我々民間人の実務家としての立場から、新たな視点でさらに提言させていただきたい。
2.『概 論』「わが国の入国・在留審査上の基本的課題について」
○ わが国の「正規在留」に係る「入管法」の現況
わが国の「出入国管理及び難民認定法」(以下、「入管法」)では、在留資格の認定や在留期間の更新及び在留資格の変更等で「法務大臣が適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り」許可をすることができるとこととなっています。
これは国際法上、外国人の入国や在留許可は、主権国家の主権の発露としての「自由裁量・専権事項」としてどの国でも自由に認められています。
とくにわが国では外国人の在留状況や態様により「27種類」の在留資格に分類・類型化し(在留資格の該当性)<以下、該当性>、さらにわが国の国民の生活やわが国の産業に対する影響度の濃淡により、それぞれの「基準」(上陸審査基準の適合性)<以下、適合性>に従ってその在留資格の適用を詳細に図っております(在留資格制度)。
さらにこの在留資格制度は二分類に大別され、①「就労に係る在留資格」と②「身分・地位に係る在留資格」とに分かれており、①は(該当性)や(適合性)の要件を充足させ、②は日本人と同等の就労条件を付与しております。
したがって、理論上は、上記の諸条件に合致しない、いかなる外国人もわが国には入国・在留できないことになります。しかも、わが国の外国人に対する在留態様に応じて、現行入管法では「法務大臣が適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り許可することができる」と規定されています。
しかしこの「相当の理由」があるかないかの判断基準は、とくに定めがあるわけではなく、「外国人に対する出入国の管理及び在留の規制の目的である国内の治安と善良の風俗の維持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益の保持の見地に立って、申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲などを斟酌し、時宜に応じた的確な判断をしなければならない」(最高裁の「マクリーン判決」)としております。
しかし同時に「その判断がまったく事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に…裁量権の範囲をこえ又はその乱用があったものとして違法になる」と、法務大臣の「裁量権」に一定の歯止めをかけています。
○ わが国の「非正規在留」等に係る「入管法」の現況
わが国の「入管法」は、外国人の入国を拒否し退去命令する際の入国審査について、①入国審査官による審査 ②特別審理官の口頭審理 ③法務大臣への異議申出を定め、また入国後の退去強制に関する違反審査についても、①入国警備官の違反調査 ②入国審査官の違犯審査 ③特別審理官の口頭審理 ④法務大臣への異議申出について定めており、外国人の上陸拒否と退去強制については、一定の「三審制度」が設けられ慎重な手続保障が図られております(準司法的手続)。
○ 「正規在留」外国人に対する「入管法」上の「手続保障」の欠陥
上記のごとく、いわば「非・不正規入国・在留」外国人に対しては、現行「入管法」上は慎重な手続保障が図られているが、在留中の外国人の在留審査(資格変更許可申請、期間更新許可申請等)に関しては、このような手続保障が存在していない。
通常、外国人に係る諸審査では「法務大臣の広い裁量」によって行われております。 また「入管法」のような特別法に規定がない場合は、一般法である「行政手続法」や「行政不服審査法」等によるべきでありますが、わが国現行「行政手続法」では、外国人の出入国等に関する処分及び行政指導については行政手続法の適用が除外されております。 従来より合法的に在留活動を継続してきた外国人が、在留審査手続でいったん不許可の判断がなされてしまうと、当該外国人の在留資格は喪失し、原則的には日本からの退去を余儀なくされ、当該外国人の今までの日本での生活基盤はなくなってしまいます。 このような在留状況を救済するためには、当該外国人が在留を希望する場合には、入管法に規定する実務上の在留審査手続(「不許可処分」⇒「他の在留資格への変更等」)は、すべて法務大臣の「幅広い裁量行為」による判断でしかなく、その「不利益処分」に対しては「退去強制手続」を通じて法務大臣の「在留特別許可」を受けるか、「不許可処分の取消訴訟」を提起するしかその方法がなく、現行入管法上にきちんとビルト・インされた救済手段としての「デュープロセス」条項がありません。
本来、合法的に在留活動を継続している外国人の「在留状態」は尊重され一定の保護がなされて然るべきであり、このような外国人の在留審査に際して「不許可処分」等の不利益処分を下す場合は、「上陸拒否」や「退去強制」の際のそれ以上に慎重に行われるべきであります。
今後は、「事実誤認」や「裁量権の範囲の逸脱」等に基づく「不利益処分」を回避する意味でも、入管法上にデュープロセス(適正手続)条項をビルト・インすべきであります。
○ 行政手続法での「適正手続」
行政手続法は、「処分、行政指導及び届出に関する手続に関し、共通する事項を定めることによって、行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること…)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的」として制定されましたが、同法第3条10号によって「外国人」に対しては同法の各条項が適用除外されております。
しかしながら、合法的に入国し、かつ合法のまま一定の期間在留し、生活上何も問題のない外国人に対して「不許可処分」を下すような場合には、入管法省令、施行規則で行政手続法の趣旨を準用した関連条項を設けるなどして、法としての「適正手続」を図るべきである。
すなわち、法務大臣(又は地方入管局長)からの最終結論を下す前に、代理人や行政書士をはじめとした申請取次者の同席の下での「対象者に対する聴聞」と、「弁明の機会の付与」が望ましい。
また行政不服審査法からも、その第4条2項の「別に法令で当該処分の性質に応じた不服申立ての制度を設けることを妨げない」を準用し、法務省令で「違法または不当な処分に関し、不服申立ての道を開く」条文を規定することも必要である。
いずれにせよ、行政手続法の「第10号」の削除と、入管法内部に、行政手続法第三章の趣旨を反映した「適正手続」の保障規定の新設を提言したい。
○ その他
地方入管局長から送付される現行の「不許可処分通知書」は、その不許可理由に具体性が乏しく、入管側での面前説明も不十分です。
今後は「一般に、法が行政処分に理由を明記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立を与える趣旨」から、また法務大臣の「事実誤認」や「裁量権の範囲の逸脱」を回避するためにも、当該「不許可処分理由」は、局側で当該「不利益処分」に対し説明責任のある「(筆頭)統括審査官」と、実際に処分判断を下した当該「審査官」との2名体制による面談を通した具体的な説明理由が強く望まれます。
3.『各 論』
(1)「短期滞在分野での問題点・改善点」
① ノービザ対象国拡大の件
概ね、「第3次答申」に準じて差し支えないが、「査証免除」国に台湾を正式に明記することと、中国に対する「査証発給」手続は当面現行どおりとし、現状でのより大幅な緩和策は、各方面でのわが国の社会的諸相をますます混乱させることになる。
同国に係わるわが国におけるあらゆる面での社会的・経済的マイナス・イメージの回復を待って徐々に緩和していくべきである。
② 在外公館での「査証審査及び査証発給」手続の総点検・高度な透明性を有するシステムのさらなる再構築の必要性
査証発給審査手続は、従来より統一的な外務本省からの「訓令」は限定的に適用されており、当地の在外公館の担当官による恣意的、裁量的な判断に偏りがちであり、云わば、公館内での担当一領事作成による、(適正手続)を欠いた何らかの「内部基準」等に頼っている。
各地域、各国の特殊性・地域性や国情等からの相違により、その審査方法に相違がでてくるのはやむ得ないが、現在、現地の領事館等では本来の本省からの「訓令」が、明確な関係法令等もないまま一担当領事の恣意的な審査に代わっており、当該外国人の査証発給の申請上、わが国おける官僚的事務処理の印象を与え、またわが国対する総体的なマイナス・イメージを強く与える可能性が高く、当該国民の申請人に無用な誤解と、かつわが国全体のマイナス・イメージに無視できない程度まで重大な悪影響を付与している。
しかし、当該外国人が一番最初に出会うわが国の「表玄関」であり、彼らが受ける初期の印象としては、わが国に対するその後の印象形成に深い影響を与え易い「場」である。 したがって今後のわが国の「国益」を重視するのであれば、やはり外務本省が指導力を発揮して、基本的かつ統一的な「査証発給基準」、及びその「施行規則」や「実施要領」を明確にし、可及的その公表に努めるべきである。
とくに今後わが国が国策として、観光立国をめざすならば、在外公館で散見されるわが国の『Yokoso Japan』(世界に開かれた観光大国)
③ ABTCの発行拡大
この分野は、もともと高度な資質を有する人材たちの経済間交流の促進が主目的であり、またわが国とっても相手国にとっても、入国上まったく問題のない人々に対する緩和策であるので、わが国の経済政策の深化によって、できるだけ早期により一層の拡大を図るべきである。概ね「第3次答申」の内容が至当と思われる。
(2)就労等の目的とする外国人の受入れ体制の問題点・改善点
① 就労に係る「在留資格」の改善点
《投資・経営》
総合規制改革による「第3次答申」の提言にもとづき、入国管理局ではそれに対応する措置として平成16年度中に同局のホームページ中に、在留資格「投資・経営」についての(4)及び(5)において、「相当額の投資」の最低基準として「500万円以上の投資額」が必要である旨説明しているが、ここでの「投資額」とは、単に所有する株式の価額ではなく、当該事業に実質的に投下された金額であるとし、例示として、「土地や建物あるいはその賃借料、さらには事務機器代等も含まれる」としている。
しかし、この説明では「投資額」の範囲は依然明確になったとは云い難く、解釈上の疑義が晴れない。
昨今、外国人による起業もIT関連事業を中心に多様化し、固定的に人材を雇用しない労務形態も今後ますます増加すると予想される中、「この500万円以上の投資が行われている場合には、『投資・経営』の在留資格について入管法第七条第一項第二号の基準を定める省令(以下「基準省令」という。)が定めている「常勤の職員が従事して営まれる規模のものであること。」の基準についても、実際にこのような常勤の職員を2名以上雇用しなくても、差し支えないとする取り扱い」(上記文書(5))により許可を求める事案)はますます増加してくるものと思われる。
そのような中で、「500万円以上の投資額」の基準が依然不明確な状況では、解釈の誤りによる不許可を恐れ、新たな投資を躊躇する外国人が頻出することが懸念される。
そこで、「500万円以上の投資額」の基準のさらなる明確化を図るため、既に例示されている上記項目以外にも、範囲に「含まれる」項目と「含まれない」項目について、できる限り多数の具体的な例示がなされることが望ましい。
上記に限らず、今後とも投資及び経営を行う外国人の在留資格制度に関する理解を深め、わが国における投資等の機会を確保する観点から、これら外国人の在留資格要件の具体的な諸事例を具体的に解説して公表するなど、制度の周知徹底を図るべきである。
《研 修》
在留資格「研修」で入国し、法務大臣告示による指定業種の研修過程での「座学」及び「実務研修」を終了し、一定の「効果測定」が課された研修生は、在留資格「特定活動」としての「技能実習」の資格へと変更後に移行する。
しかし最大の在留期限は合計3年までで、その後の研修生は一旦帰国するほかはなく、現行入管法上「再研修」は閉ざされている。
平成16年4月14日の経団連のよる「提言」によると、「技能検定3級」を取得することと「日本語能力試験2級」合格の取得を「再研修」の要件に掲げているが、3年間の「研修・技能実習」でも、経験則上「技能検定3級」の合格者はまれのまれで、制度を設けても対象者がいないのが現状である。
基準を定めても対象者がいないという事態をさけるため、そもそも「技能検定3級」を取るのにどれだけの時間が必要かということから検証すべきである。
むしろ、最初はもっと基準の低い「技能検定基礎1級」と「日本語能力試験2級」の合格を要件とすれば、研修生の努力目標になり、また「再研修」できるとなれば「失踪防止」にもなる。
そして「再研修」中に「技能検定3級」を取れば「技能」への在留資格の変更を認めることで、育成した人材にさらに磨きをかけることにもなる。
今後、開発途上国への技術移転に関するニーズ、わが国の国内体制の等を踏まえ、国際貢献に資する観点からも、現行62種となっている技能実習制度における対象職種について、製造・建設等の拘らずサービス業も含めて幅広く見直していくべきである。
《企業内転勤》
昨今、欧米企業を中心にしばしば活用されている在留資格である「企業内転勤」では、日本に派遣される社員は、直前に外国にある本店・支店等の営業所にて「一年以上継続して雇用」されていた者のみを対象としているが、日本留学組や日本語能力検定合格者等の人材の場合は、何も一律に「直前一年の雇用」形態に拘らずに企業における即戦力要員としてすぐ稼動できるよう、他の類似の在留資格である「人文知識・国際業務」が要求している就労活動の整備を図るとともに、本人の学歴・職歴及び派遣企業での研修内容等を勘案することで、入社後一年未満でも派遣できるよう改正すべきである。
《技 術》
最近、数種の「大臣告示」等で、各国からのIT技術者の受入れに関して、一定の情報処理技術試験の合格者については、大卒以外の場合の従事しようとする業務ついての「10年以上の実務経験」を問うことなく、その国での「資格」をそのまま認定して「技術」に係る「上陸審査基準」に適合する措置をとっているが、他国での「技術系資格保持者」に対する要件の緩和策として、他の「理学、工学その他の自然科学の分野に属する技術又は知識を要する業務に従事する活動」にも拡大すべきである。
さらに斯界分野で交流される言語や機器操作等は、「ウィンドウズ」や「マッキントッシュ」等と云った世界二大基本ソフトが主流で、国籍や異種言語などはまったく問わない世界共通の知識・技術基盤があり、それに加えてますます日進月歩の早い且つ激しい斯界分野で適宜即応するためには、大卒以外の場合の「10年以上」という現行の実務経験は必要ではなく、「3年」~「4年」くらいまで短縮すべきである。
またアメリカのIT技術産業分野を支える者の過半数が、インドからの優秀な技術者要員が多数を占めている現状を深く認識し、わが国も国益に沿って、IT技術者受入国の偏在化を回避し積極的に受入れ体制を多様化して、ひろく各国の優秀な高度の人材の確保に努めることが望ましい。
《人文知識・国際業務》
この在留資格上の「人文知識」の部分については、現行法上、大卒以外はその従事しようとする業務について実務経験「10年以上」を要求しているが、2003年1月14日の日本経団連の「意見書」でも取り上げているように、各産業分野の目まぐるしい変遷とその加速化により、斯界分野でも、当該就労活動に要求される業務知識・業務経験等はかなり「画一化」「規格化」されており、単なる業務経験の長短による能力格差はかなり「均等化」・「均質化」されているので、「意見書」で既述されているように「3年から4年」で十分ではなかろうか。
《技 能》
外国には固有の文化や産業に根ざした産業があり、そこにはその外国の文化だけを背景的基盤に置く思考様式や感受性に基づく熟練労働者がいる。
この分野は、彼ら個人が自己の経験の集積により具有することとなった技能が熟達の域にある能力(熟達した技能)を活用して、その他の諸外国の国民を堪能させる産業分野であり、しかもこの分野はわが国の国民では代替できない分野なので、今までも、わが国の企業家はこのような文化や産業を幅広く取り入れて諸外国との文化交流を図ってきた。
現在わが国政府が進めている「構造改革特区」において当該在留資格を柔軟に適用しているようであるが、今後不法就労、不法滞在等他の犯罪の防止策等を図りながら、斯界分野からの要請により、主に食文化等を中心とした国際交流さらに進めるべきである。 具体的には、その対象業種としての美容師、理容師、公的又は認定エステティシャン、資格保持者やコンクール入賞者等には、然るべき「公的(認定)証明書等」の添付等の法的担保の付加により、現行の一律「10年以上」の職歴要件を半減すべきである。
またさらなる国民や産業界からの熱心な要請に応えることで、現行の「基準省令」上の8つの限定列挙による「在留資格該当性」のさらなる拡大が必要と思われる。
《医療》
現行入管法では、わが国の医師国家試験、歯科医師国家試験、保健師国家試験、看護師国家試験に合格した外国人に対する就労については、医師、歯科医師では6年間、保健師・看護師」等では4年間の「研修」だけが許されているが、わが国おいて正規の教育を受け、わが国での就労意欲のある者については、高度な医療教育を受けた人材として医療機関での就労が可能になるよう改正すべきである。
とくに「看護師」資格はお互いの国家間での「相互認証」を行い、日本入国前に当該国で先に「日本語」を含め、日本での看護分野の教育に必要となる諸条件を習得させた上、入国後はある程度簡易な業務から中級程度までの「OJT」を通じて能力を高めていくような受入れ方法が有効ではあるまいか。
また「介護」資格は、現在その専門性の高い人材を国内で養成中であり、またホームヘルパーの1級~3級過程を終了した者は国内に200万人以上おり、この社会的影響と成果を待って徐々に受入れを行わないと、現行の「受入れ施設」基準では、単なる「単純労働力」の受入れにつながる恐れがあるものの、今後「介護・看護・あんま」等のFTA協定により受入れられる外国人が増加することが予想され、少なくても彼らの在留中の自分の「命」は自国語で託せ意思疎通に支障がないよう、医療分野でのわが国の国家資格を取得した外国人に対しては、就労地域、施設などの制限を撤廃して就労の期間更新を認めるなど、在留中の外国人就労者に対する公的サービスの一貫としては、就労制限を徐々に緩和していくことが望ましい。
そのため、既述したように、外国の学校養成所を卒業した者、または、外国で免許得た者がわが国の医師・看護師の国家試験、または医師国家予備試験などを受験する際に認められる教育内容の同等性と厚生労働大臣が適当と認める際の基準を明確にし、認定基準を緩和すべきである。
また平成12年12月26日の(法務省告示第518号)は廃止すべきである。
《その他》
現在FTA等の二国間協議の対象となっている「介護・看護・あんま等」の受け入れ問題は、わが国の斯界諸団体等からの強い圧力のために、わが国の当該市場開放にはいま少し深い国民的議論が必要であるが、わが国の「少子化・高齢化」等のさらなる進行により早晩の実施は不可避である。
ただ現行入管法では「研修」での受入れしか該当する「在留資格」はない。
「技能実習制度」乗せるにはやはり「検定試験」が必要となるが、わが国でのマーケットとしては相当規模の需要が望まれるため、タイ、フィリピン等の「送り出し国」や台湾等の「受け入れ国」等の諸事情を調査する必要がある。
しかし今後も単なる「個別的企」等の受入れで始めると失敗する可能性が高いので、既述したようにまずFTA協定による「送り出し国」と「受け入れ国」間で基本的な受け入れの「法的ベース」を構築し、その後にわが国での彼らに対する日本語教育、生活習慣、安全、資格等についての法的整備のため入管法上の「基準省令」を改正する。
(3)留学等を目的とする外国人の受け入れ体制の問題点・改善点
《就 学》
現行の民間レベルでの学校運営を今後とも続けていく限り、常に経営面からの要請を重視した「学校運営」にならざるを得ず、やはりこの分野もFTA等の政府間協定等を通した何らかの形での「公的規制」を加える必要がある。
日本に初めて留(就)学する若い留(就)学生が対象となるだけに、今後の彼らの日本というものに対するイメージアップを図る意味でも、当初のキメの細やかな留(就)学生対対策が望まれる。
むしろ今後のわが国の国益や長期的な留(就)学生対策から見れば、この分野にこそ大きな「公的規制」の網の目を先に施す必要があるものと思われる。
未経験・未熟な彼らの、わが国での当初の語学や生活環境のインフラ整備や構築を公的に図ることで、彼らが早期に自力で語学や日本での生活環境に早く順応できるように支援することが必要である。
このような「語学・生活基礎インフラ」によりある程度わが国の諸事情に通暁したあと、彼らの希望により次項の留学生への移行や就労資格への変更に道をつければ、現在官民間に散見される多くの「混乱状況」は改善されるものと考える。
「公的規制」の対象としては、むしろ今までが「学校運営」としてはまさに「本末顛倒」と云わざるをえない。
《留 学》
昨今のわが国の経済状況により、学生たちの就職戦線も日本人学生と同様に厳しいものがあるが、現行法上、「留学」の在留期間中に就職のできなかった留学生たちは、原則上は帰国等を余儀なくされる。
しかし優秀な彼ら学生たちは日本の企業にとっても有益な「企業戦士」であることに変わりなく、彼らの卒業時に応募した企業が、入管法上の要件にたまたま一致していないというだけで本人の「在留資格変更」申請が不許可になれば、留学生として「卒業」したという「能力」や「誇り」も十分にある彼らの資質が、一回だけのチャンスの喪失だけで、わが国への企業参加が閉ざされてしまうのは何としても不憫であり、また明らかに他の学生たちとの均衡を逸している。
そこで優秀な留学生たちには、彼らが他の外国人と違って日本語と日本の諸事情に通暁している諸点を勘案し、「特定活動」等の在留資格を拡大解釈して、卒業時せめて一年間の猶予期間を付与して次回の就職のチャンスを与えるべきである。
また、わが国の専門学校を卒業した外国人留学生がわが国の企業に就労する場合、現行入管法では、当該専門学校卒業時での「専門士」の資格の有無で引き続きわが国での在留継続を認めているが、「在留資格変更許可」手続には、一般の大学卒留学生と比し、かなり厳格な変更要件(履修内容と就労先企業の事業目的との一致の厳格性)が課されており、しかしこの「専門士」の資格はわが国に在留中のみ有効なもので、わが国での「就労」に失敗し一旦帰国してしまうとこの資格は失効してしまう。
再度の日本入国時には、本人の日本での過去の学歴は考慮されておらず、就労が失敗して一旦帰国しても、再度の日本への入国の際には過去の学歴要件が加味されている一般大学卒留学生とは、過去の勉学条件に相違はあるものの、再度日本への入国方法について、縁あって日本で何年か勉学していた日本での在留期間が、一方では考慮され、もう一方ではまったく考慮されないということでは、今後同じ「知日家」育成のためには明らかに均衡を逸していると云わざるをえない。至急是正すべきである。
《その他》
わが国に不法残留している外国人の数は、平成16年1月1日時で21万9418人であり、法務省入国管理局と東京都とは、現在この数字を半減するための諸施策を講じている。
構成諸国としては中国とフィリピン、南アジアの一部の諸国を除き、概ね年々減少傾向にあるが、現在圧倒的多数を占めしかも年々増加しているのは中国である。
このような現状に鑑み、一部突出している諸国等には従来のどおり(メリハリ)の効いた退去強制手続を通じた措置をおこないながらも、年々減少傾向がありしかも不法状態とは云え、刑罰法令違反者等の除いたいわゆる(Undocumented People) である不法残留者を、彼らの入国事情、当該不法残留者のわが国での不法在留中の一切の行状、国内の政治・経済・社会等の諸事情、国際情勢、外交関係、国際礼譲などを勘案しながら、従来からの、一定のキャンペーン期間の摘発中心主義による一律な強制的「排除」から、「在留特別」等を通じてもともとは「善良」であった外国人に対し、何らかの形で(Documented People)に変更してわが国での「法的地位の安定」を図ることも、当該「総数」の半減策の選択肢の一つとして考慮していいのではないか。
(4)永住に係る「要件」の明確化「日本版グリーンカード」
前回の総合規制改革会議での「規制改革の推進に関する第3次答申」指摘されているとおり、高度技術を有する外国人研究者・技術者や経営者・ 投資家等に対して優先的に永住権を付与する永住許可の「基準」作りは、あくまでわが国の「国益要件」を基点として、構造改革特区等の「永住許可における資格要件の特例措置」の撤廃とその措置の「全国展開」を早期に加速化を図るべきである。
また同時に、現行入管法上、一度取得すれば永遠に有効であるわが国の「永住者資格」も、その適用実態が入管法が予定していた本来の趣旨(日本に骨を埋める覚悟でわが国に在留してもらい、その安定した在留状況で如何にわが国に社会貢献してもらうか)から背離している状況が増えつつある現状では、アメリカ政府のように取得後10年前後で再度本来の趣旨に基づいて「見直し策(更新手続の採用等)」が必要かと考える。
(5)国際間の「ヒト」の移動を通じた、わが国おける『多文化共生社会』の実現に向けて
今後、わが国の「人口減少時代」への対応として、総人口や生産年齢人口の減少においても、女性、高齢者の労働力率の引き上げ、生産性の向上等により、経済的にはある程度国内で対処できることについては、一定のコンセンサスができているが、その経済的効果については必ずしも判然としない。
国内の失業問題や治安問題との関係で受け入れ反体論もあるが、社会の多様性が進むことがわが国の今後の社会的「活力」につながるためには、そのような多様化に資するような人材の受入れをやはり今後とも進めていくべきであり、とくにわが国の場合は、日本の雇用状況の7割は中小企業であり、産業の高度化がさらに進展しても、そのような産業形態は社会的に必要であり、今後とも存在していかざるをえず、そのため外国人労働者に係わる斯界分野からの経済的要請は、従来と変化がないものと予想される。
そのための外国人労働者の受け入れにあたっては、その適正管理のため「統一的」行政官庁の構築が必須であるが、現状では関係機関との緊密な連携がさらに重要になるほか、不法就労、不法滞在その他の犯罪の防止策等の治安保持に鋭意努力しつつも、受け入れに伴う社会的・雇用的コストの均等負担、労働環境の改善等、また労働者管理体制においても雇用主の責任等の明確化を雇用主側にも認識させ、さらにそれに係る法的な担保を要求する公的チェック体制の確立が強く望まれる。
他の諸外国政府のように、社会的活性化のための有用な人材受け入れ手続の実務的処理として、IT時代に相応しく迅速な事務処理体制の加速のため、入国基準に係る各種の「ポイント制」の導入を図るのも一つの方法であろう。
いずれにせよ、今も今後も産業界が要望する外国人「労働力」には、「外国(人)」という我々と同じ生身の「人間」が一体となってやって来るのであって、さらに本人だけでなく家族も一緒に来日すれば、それだけの人数が、生活水準の高いわが国で間違いなく生活していくわけであるから、両者を分離して当人の「労働力」だけを利用しようとしても雇用責任は免れない。
つまり企業戦略における「経営資源」としての(人的資源)だけを取り出してそれを活用しようとしても、純粋に計数的な「効率化」や「経済効果」だけでは割り切れない「属人的要素」に左右されるのである。
また行政側もいつまでも「排除の論理」だけに拘らず、ここではむしろ、せっかく縁あってわが国で邂逅し、我々にはない歴史と風土や文化に育まれた思考や豊かな民族的感受性を基盤に持ち、総合的にその国民として開花した外国人との出会いを大事にし、むしろ彼らとの共存共栄をはかりながら、いろいろな分野で彼らの利点を大いに活用し、またお互いの足りないところを補足しあう、「唇歯輔車」の関係の構築が必要となる。
今後「ますます拡大する日本」は無理としても、子々孫々、国土を衰退に向かわせる「美しく小さな日本」はごめんである。
トラックバック
トラックバックURL:http://www.freede.sakura.ne.jp/mt3/mt-tb.cgi/21